NAKAGIN’S SCALE展を見る (西松)

奥野ビ306号室で開催のNAKAGIN’S SCALEを見る。黒川紀章が設計しメタボリズムを象徴する中銀カプセル・タワーは、現在老朽化などにより建て替え問題が起きているようだが、この展覧会はそこに暮らす住民が「建物と空間がそのままあることの意義」を問いかけるために企画したという。
会場には大橋富夫撮影の建築当初の建物の写真を始め、さまざまな関連資料が、所狭しと並んでいる。注目したのは、かつて美容室であったこの部屋の窓に重ねるように置かれた丸い金属の輪。一体何かと聞いてみるとカプセルの窓に設置されていたカーテン用の金具だそうだ。カーテンは蛇腹のように開いたり閉じたりしたのだという。その斬新な発想に、人類が宇宙に乗り出し、新しい生活を夢見るようになった時代が重なる。しかし、その時代が40年経過した今の日本で宇宙の彼方のように遠く思えるのはなぜだろう。もう一度、あの夢が蘇ることがあるのだろうか?
もうひとつは住民が暮らす部屋の内部を実測し、イラストに表したSatoshi Yasuharaの作品。じっくり見ると、限られたスペースながら個人の差異が浮かび上がるのが面白い。作者は「実測とは・・・世界を知るための唯一の方法論」だと言い、地図に例えて「世界地図を書き換えてしまえば、私たちの世界観は一瞬で変化する」と恐ろしい言葉を添える。それに釣られて実測とは一体何だろうかと考えた。Yasuharaさんは実測のルールとして、「可能な限り主観を含まず記述」というが、人間に果たして嘘のない実測が可能だろうか? 限りない欲望と資本の論理によって果てしなく膨張を続けている世界は様々な実測を必要としているが、実測不能な闇がどんなにあることか。
見ているうちに、つい自分の心のうちは、出口が見いだせない現代社会の袋小路に引き戻されてしまったが、それこそこの展覧会が目指すところだったのかもしれない。
最後に、記念品として販売されているカプセル・ブレンド・コーヒーについて一言。モヤモヤした気持ちで家に帰って、気分直しに入れてみたが、今まで飲んだことのないさわやかな味わいで、いっぺんにモヤモヤが吹き飛んでしまった。お薦めします。