黑多弘文 「 study 73 みよちゃん 」

黑多弘文
「 study 72 みよちゃん 」
2/23(木)〜24(金)
13:00-18:00すぎ

study 72 みよちゃん

「タロがいなくなって、あちこち探したがどこにもおらん。『隣りの集落の連中が連れてって、赤犬 だ、食っちまった』って大人が話しておった。びっくりして泣いたよ、かわいいタロを食べるなんて。 今じゃ聞かんが、こんなこともあったなあ。じいさんが豆腐屋から帰って来んで迎えに行ったら、 田んぼの中で踊ってたんよ泥だらけで、呆けた顔してぴょんぴょん跳ねてよぉ、褌一丁で。『じい さんじいさん』声掛けたら、はっと我に返って、若い女と踊っとったとぽつんと立ってたよ。山から 田んぼに行く辻にお稲荷さんの祠があってなあ。油揚げもっていかれてもうて、狐に化かされた んだねえ」 「そんなこともあったなあ。あんたもよ、みよちゃん。あんたの婚礼、花嫁姿で山ぁ下りると急に ざぁーっと雨降ってなあ、お天道さ顔出してんのになあ、ほんまになぁ」 ほんまに、みよちゃんは嫁となって家に入りました。 こうしたことは当たり前に起きていました。自然と人間の暮らしがありました。みよちゃんが結婚し た頃から、わたしたちは狐にだまされなくなりました。だんだんそういう話しを聞かなくなりました。 みよちゃんはもうすぐ92歳です。