第5回 西洋館物語 上映会「乃木邸」の報告(西松)

今回は、乃木邸の成り立ちや構造を乃木希典の生い立ちから殉死までの生涯をたどりながら紹介したビデオである。まず、興味深いのは自邸よりも厩舎が先に作られたこと。しかも、厩舎の方は豪華な煉瓦造りであるのに対して、自邸はフランスの連隊本部の兵舎を模した石と木造の質素な建物である。愛馬に対する特別の思い。どこか変わっている。

乃木自ら計画に関わり、軍の技師であった北沢虎三が設計した。半地下、地上2階建て、質素な洋風住宅に和室を備えた168平米の建物である。外壁の板張りには防水、腐食防止用に柿渋と松のすすを混ぜた黒渋が塗ってある。また、暖炉は応接間用と和室用を背中合わせにして煙突を共用するというきわめて合理的な考えが見られる。

乃木は気骨のある明治人というイメージが一般化している。人を引き付けるカリスマも備えていたという。しかしその生涯に3回も休職を経験し、酒浸りの日々もあったというのは意外。また、学習院の校長時代、子供たちの教育に熱中していた無邪気なふんどし姿の写真は新鮮だった。

日露戦争の203高地では、二人の息子と共に多くの兵士を死なせた。ずっとそのことが頭に残っていたのか明治天皇崩御の際、夫人と共に自決した。番組の中では、殉死した部屋を木漏れ日のゆらめく映像で撮っているところは、妙に生々しかった。

上映後の座談の中で、制作者の近藤さんが、「あの部屋には、なにか特別な雰囲気が漂っていた」と語り、その方向に話が進んだ。二階に息子達の部屋があったが、彼らは新築されたこの家に2年しか住んでいなかったという。その二人の息子を失い、夫と共に死ななければならなかった夫人はどんな思いだったのか。

いつも以上に建物が、それを建てた人の何かを宿していることを感じさせてくれた。