松井祐生(関川卓哉)
Etiquette / Excavation / Affection (倫理/潜在熱源/草迷宮)
2023年10月15日〜10月17日
15:00〜20:00
映像インスタレーションの展示
作家プロフィール
東京出身。駒澤大学法学部を卒業後、2016年写真新世紀受賞を機に独学で映像/写真/ペインティング/3D制作を始める。
近年はVRをもちいたインスタレーション作品などを制作。「変形・変容」をテーマとし、一枚の写真を「人固有の、各人が有している(或いは住んでいる)記憶の壁の一部」と仮定して、写真を撮る行為はその壁を破壊する行為(一枚の写真が象徴化/特別化してしまう)と考える。
尚、関川卓哉は異名同人で攻殻機動隊における「タチコマ」に近い感覚(脳がクラウドを共有し、知識と経験を同期できる感覚)。
主な展示に、2023年「踊りを忘れた身体のためのバレ/YAU OPEN STUDIO 2023」(三菱地所、YAU協力)、2022年「ソノ アイダ#新有楽町/ I Count Three Bodies」(株式会社アトム企画、三菱地所、YAU協力)など。
主な受賞歴に、2021年「IMA NEXT ショートリスト選出(ヴィヴィアン・サッセン氏選)」、2020年「TOKYOFRONTLINE 準グランプリ」など他多数。
2021年『きっと私たちは自然ではない』(アートビートパブリッシャーズ刊)を刊行。
作家ステートメント
Etiquette/ Excavation /Affection
1-1.あるアニメの中で、主人公は鞠のように弾んでいくボールに誘われて「思い出をあづけることのできるお店」に迷い込む。そのお店には2体、空の子供型サイボーグがあった。この2体の子供は幼少期に生き別れた二人で、両思いだったという。その内、片方には記憶があるが、もう一方には記憶すらない。主人公はこの2体のどちらか、或いは両方にある「思念」に呼び寄せられたのかもしれない。
1-2.「白昼夢?」
「もしかして、もっと…霊的なものかも。」
「寝返り打ったときに幽体離脱して変なもの見ることはあるけど。」
「そう?じゃあ、自分の持ち物に思念を感じたりしたことは?」
「そうね…長距離をドライブしていて自動車自体を手足の延長みたいに感じたことはあるけど…、ねぇ!」
1-3.副題は「草迷宮」だが英訳は「labyrinth」ではない。ここでは「Affection」と名付けられている。つまりこれは寺山の映画ではないのだが、映画の原作に対する解説としてこのような一文をネット上で見つけたので、記したい。
「登場人物たちにとっての「現実」を「現前」させるのは、事物や言葉に関わる種々の「智識」ではなく、「声」や「まなざし」のような非実体的な要素に触発されて様々に変化する彼らの「感情」であった」
2.私は一枚の写真を「人固有の、各人が住んでいる記憶の壁の一部」と仮定して、写真を撮る行為はその壁を破壊する、ある種のヴァンダリズム(一枚の写真が特別化してしまう)と考える。だがとても人間らしい行為で、写真は時として人間たちを守るかもしれないとも思う。
3.日本語で「倫理」と訳されるドイツ語「Ethik」は「エチケット」の語源としても知られる古代ギリシャ語の「エートス」の派生語で、日々の行動の蓄積で体得された規範を指している。
4.人々は多くのルールを暗黙裡に共有している。例えばある学者は出来高払いの労働者が、1日に必要な金額以上に働かないという不合理的な行動から、人々が「未来が安定して続くという信念」を共有していると言及し、宗教や地域などの特定の範囲において根源的な原理が生じると分析している。
5-1.人間の奥底にある熱。私は光を「放射能コミュニケーション」と仮定した。人と人が理解し合う事は、相手の細部に私の光を当てて、互いの細胞を溶かし合うことかもしれない。光を浴びて内部の分子の振動が活発になる。そうして溶けていくのだ。溶かしあった場所は修復されて少しづつ変形し、時として癌化する。そういうふうにプログラミングされている。人間を拡張させる。コミュニケーションも拡大し、都市や国家のコミュニケーションはやがて戦争や紛争へと発展していく可能性を孕む。
6.Dubbing idolatry
あるアニメの中で、アイドルとは「夢を語り続ける人形」とされる。
その「アイドル」はダビングされた複製として生き続け、人々は「夢」を見続けていくー
現実のタレントはいつ幻想が崩れるやも知れない。
だから平和な、見たいコンテンツの、見たい側面を見続けたいのだ。
アイドルはどことなく「阿修羅像」を想起させる。万物の「生命を与える」神であったそれは、宗教に利用され「修羅」の道をへて仏教に帰依したことにより未知なる力で煩悩から人々を守る化身となったという。
私たちの社会は穏やかに貧困へと入りつつ、その事実に気づかないまま理由のわからない不安を感じ取っている。だからこそアイドルという虚像を、人々はダビングし続けていくのかもしれない。
5-2.《放射性崩壊》
原子核の核子と核子はごく近い距離では引力が働き核子同士を結びつけるが、
陽子同士の間には電磁気力として長距離的な斥力が働いているため、
陽子と中性子のバランスによっては原子核は不安定性を抱えてしまう。
原子は、その原子核の不安定性を解消するため
放射性崩壊(英: radioactive decay)という
原子核の崩壊現象を起こして安定な構成の原子に変化する。
なお、放射性崩壊に際しては放射線が放出される。
ウィキペディア(Wikipedia)
“魂の鎮まれり歌を聴け。
さりとて僕が崩壊することを君は止められやしない。
豈図らんや、僕は君を切りつける。”
7.『アムール』についての考察
愛とは異常で、あまりにもささやかな配慮である。
部屋の中から扉が映されると、勢いよく扉が開かれる。何やら人だかりができている。
数人は鼻を押さえている。すぐに警察官らしき人たちが足を踏み入れる。
そのうちの一人はゆっくり、おもむろに家の中を歩きだす。ガムテープで固定されている扉を開けようとする警察官たちを横目に、男はそのままリビングへと歩みを進め、
急に顔をしかめ鼻を抑える。急いでリビングの窓を開けると、カーテンが揺れ、風が流れるのがわかる。男は再び歩きだすと、ほぼ同時に「扉が開きました」と声がかかる。
刑事らしいその男は部屋へと入るなり鼻に手をやり、部下に「窓を開けたのか」と聞く。その部屋の窓は開いていて、カーテンの動きで風が穏やかに流れている事がわかる。部下は「いえ、開けていません」と答える。そしてカメラはシワひとつないベットの上の、横たえる老婆を映し出す。
その老婆の周りは花々で彩られ、髪は綺麗に結われていて、淑やかなワンピースと綺麗に磨かれた靴を履き、行儀よく横たえていた。そして徐々に老婆の顔へとクローズアップしていくと、この老婆が死体であることをカメラは告げる。
ここは「愛」で満たされているのだ。
8.私は空間のためではない壁を作ろうと思った。
いつかできた岩が崩れた時、新しい壁ができ、すでにある場所はなくなる。そしてもう知っているはずの、新しい場所が生まれる。