黑多弘文「study 89」

黑多弘文
「study 89」1
2023年1月19日(日)
15:00〜19:00

なぜMは僕を誘ったのだろう?
クラスでも仲が良いというわけでもなく、休み時間に遊んだり給食を一緒に食べたり放課後一緒に帰ったこともない。友達といっていいのかわからない。Mは僕にとってクラスのなかの一人でMにとってもそうだった。
夏休みもお盆近くなり、まだ休める、もうすぐ学校だと楽しいことには終わりがくるのだと、昼寝もそうめんも飽きたころ突然Mが母親とやって来た。Mの田舎にTと三人で行かないか、照れ臭そうなMのほんのり赤い顔は覚えている。その後のことは記憶にないが、ただあの線だけは僕の中で引かれたままだ。
鬱蒼と黒黒した林を車一台分の舗装したでこぼこ道が40メートル先から登り坂になるのが見えた。途端にMとTと僕は一斉に走り出した。誰が最初に駆け出したのか、何かに押されて三人固まりになって発射、ぐーのこぶしと頭がぐらんぐらん揺れ体が笑って思いきり笑った。あと少し坂のてっぺん、空が近づくと思ったら急に海の線が現れた。空と違う青い線。汗と朝露が混じって僕はあはあしながら僕は消えていった。
その後のことは何も覚えていない。あの道の先の出来事を思い出せない。海水浴のこともMやTのこともMが僕を誘った訳も夏も坂のてっぺん手前で終わった。
今、寝苦しい時にあの空と海の線をおもい描く。と、いつの間にか消えるように寝てしまう。