第6回 西洋館物語上映会 清泉女子大学本館(旧島津公爵邸)の報告 (西松)

品川区東五反田にある清泉女子大学本館は、明治政府の招きで来日したイギリス人建築家ジョサイア・コンドルが設計したルネサンス・バロック折衷様式の洋館で、戦前の華族の邸宅の面影を残す貴重な文化財である。
建物の東側に、重厚な構えのポーチつき玄関があり、芝生に面した南側には、1階と2階とで異なる様式の列柱が連なるベランダが付いており、その中央部は丸くカーブしている。玄関扉、中央ホール壁面の窓、階段の踊り場の窓などに端整なステンドグラスが施してある。部屋の天井にも漆喰で薔薇の花模様の浮き彫りがあり、細部へのこだわりに目を奪われる。館には、どこか貴婦人のような風格がある。

近藤山子さんが制作した番組は、建物の芸術性もさることながら、それに関わる様々な人間の物語が描き出されているところに大きな特徴があるのだが、今回は、歴史的経緯においてその魅力がよく示されている。
この地は江戸時代には伊達藩の大名屋敷だったが、新政府となって島津家の所有となった。建物が老朽化したため洋館の新築を計画し、コンドルに設計を依頼、大正4年に完成した。新築された島津公爵邸には天皇皇后も行幸、多くの使用人がここで働いていた。番組では、公爵家の優雅な生活の様子を、大学の広報係の女性が説明しているのだが、あたかも島津家ゆかりの女性執事さながらのおっとりとした物腰の語り口に、往時の姿が浮かんでくる思いがする。
やがて、金融恐慌や戦争によって邸宅の維持が困難になり、日本銀行に売却。戦後は米軍将校の宿舎として使われていたが、接収解除後、スペインに本部を置く聖心侍女修道会が、女子教育に相応しい建物として購入、横須賀から大学を移転、清泉女子大学本館となった。つまり建物は公爵邸から大学へと大きな変身を遂げたのである。その事情を、元校長のシスターが語った。傷んだ建物を修復し、女子大学に相応しい建物を再生すべく尽力した若き日々が画面からじわりとしかも熱く伝わってきた。
上映後の話題のひとつは、見事なステンドグラスの制作についてだった。近藤さんによるとコンドルはお抱えの工房を持っていたようだ。もうひとつは、初期には鹿鳴館や丸の内赤煉瓦街を造ったコンドルの日本文化への傾倒である。河鍋暁斎に日本画を学ぶとともに日本の庭園や生け花に関する本も著した。誤解やすれ違いもあったようだが、今も続く文化交流の一つのモデルだろう。そして建物を語った二人の貴婦人のような女性たちのこと。そのように愛されて生き続ける建物はまさに貴婦人の館ではないか。